地域医療とは、その地域住民の健康の増進や維持を目的として、各地域の病院や診療所などの医療機関が主導し、各地域の行政・企業などが緊密に連携して取り組む総合的な医療活動のことを言います。
現在、日本は世界でも類を見ない少子高齢化社会に突入しています。この特異な社会を支えているのが地域医療です。マスメディアなどで取り上げられる医療の現場は、いわゆる東京都内の大学病院などで行われている超最先端の高度先進医療がメインですが、それらの医療を下支えしているのが地域医療です。
現在日本の医師の数は約33万人で、人口10万人当たり約240人となっています。これは世界的に見ても非常に高い水準で、日本全体を見た時の医療提供体制がいかに充実しているかがわかります。しかし、実際は、すべての地域で医師が十分であると言わけではありません。東京といったような大都市圏では、医師数は十分確保されていますが、いわゆる地方では医師不足が叫ばれてい地域も多いです。
原因の一つは、大都市一極集中であると考えられています。高度先進医療が提供できる病院は都市部に集中しているのが現状です。若い医師を中心に自分の腕を磨きたいと考える医師は、症例数の多いそのような病院に集まってくるのは当然であると思います。だからこそ、地方でも都市部同等の医療提供体制を整備し、医療の質および医療従事者の数をフラットにしていくことが重要です。
前述したように地域医療の課題は、医療の質およびメディカルスタッフの数の保証です。ある地域の病院では、麻酔科医が不足し、小児に対する難しい手術でも麻酔科専門医が麻酔を行わず、外科医が代わりに行っているということもあります。小児に対する麻酔は非常に難しく、その知識・技術が十分でないと非常に危険であるとされています。
また、ある地域の産婦人科の医師が不足してしまい、妊婦や新生児に対する十分な医療を提供できなくなってしまい、一般的な医師の給与よりも高い水準の好待遇で募集をかけたにもかかわらず、応募者がいなかったという地域もあります。
高齢化は地方に行くほど深刻です。高齢になれば誰しも、どこかしら身体に不具合が出てきて、病院のお世話になることになると思います。つまり、地方になればなるほど病院を日常的に必要としている人の数は多いのに、医師をはじめとするメディカルスタッフの数は少ないというジレンマが乗じてしまっています。
では、単純に給与を都市部よりも高くすればよいのではないかという意見もあるかと思いますが、実はそのように単純なわけでもありません。大きく理由は2つあります。
まず一つは、給与の水準を極端に上げることができないということです。病院といっても利益を出さなければ、経営は立ち行きません。確かに、高齢者が多く、患者さんの数は多いかもしれませんが、いわゆる手術数は都市部ほど多くはありません。医師の給与を極端に高いものにすれば、見た目の医師数は増えるかもしれませんが、そもそもの病院経営が上手くいかなくなってしまう可能性がでてきます。病院が潰れてしまったら、その地域住民の医療提供体制が不十分になってしまい、元も子もありません。
もう一つは、症例数の少なさです。医師の多くは、症例を多く経験し、自分の腕を磨いていきたいと考えています。単純に目先の給与が良いからというだけでは、地方に医師が流れていくということは考えにくいです。もちろん、もともと地域医療に貢献したいという志を持った医師がいることは重々承知していますが、症例数の差という圧倒的な壁が立ちふさがってしまいます。
この症例数の壁という大きな課題を解決するために、さまざま方策が練られています。まずは、病床数の再編です。病床数を緩やかに減少していき、長期間の入院患者の数を少しずつ減らしていくことを目的にしています。高齢者の医療で特に問題視されているのが長期間の入院です。この入院期間を可能な限り短くし、ある程度病状が安定したら、自宅療養やケアセンターで健康を管理していくというスタイルです、これによって病床稼働率が上がり、一つの病院当たりの症例数も増やしていくことができます。一つの病院の症例数が増えれば、その地域に従事する医師の数も増え、結果的に多くの患者さんを診ることができ、医療の提供水準を上げることができます。また、少子高齢化によって若者世代の負担が増える中、その負担を軽減していくためにも高齢者医療を地域全体で包括的に支えていくことが、非常に重要になっていきます。
人間だれしも年老いていきます。だからこそ、高齢者医療に対してすべての世代が関心を持ち、地域医療に関する問題点を議論、解決していくことが重要です。高齢化社会を生きていくわたしたちにとって、地域医療は目を背けることができない大きな社会課題です。難しい課題ですが、地域医療について少しでも関心を持っていただければ幸いです。