今では多くの医療機関が町中にあふれています。名称をよく見ると、病院と表記しているものもあれば、クリニックと書かれた医療機関もありますが、違いがあるのでしょうか。まず、病院は入院できるベッドを20床以上持っている医療機関です。そして、クリニックは入院設備が19床以下の医療機関です。そして、必要人数も病院は医師が3名以上必要となり、クリニックの場合は1名以上で開業ができます。そのため、病院とクリニックの業務の違いが出てくることになります。また、仕事内容、給料、残業の違いなども発生します。
病院は一定程度の入院設備を持ち、急性期の患者を受け入れる体制が整っています。そのため、CTやMRIなど精密に検査できる機器もそろえられているケースが少なくありません。それで、高度な医療を受けなければならない患者も多く訪れ、医師としてのスキルが求められる仕事が多くなります。診療科ごとに専門の医師が配置されることも多く、特定の分野を極めている医師も少なくありません。病院によっては一般の病院では見ることが難しい高度な医療を提供する「特定機能病院」の指定を受けていることもあり、そのような医療機関ではより高い専門性が求められます。さらに、「地域医療支援病院」の指定を受けていると、地域医療に特化した丁寧な診療や経過観察が必要となります。入院設備が充実した病院では、当直も大きなウェートを占めます。当直は、昼間の外来と異なり、自分の専門の診療分野を超えた患者が来ることがあり、的確な判断や看護師など他の医療スタッフとの連携も大切になります。最近では大病院志向が強まり、規模が大きい医療機関ほど、多くの患者が訪れる傾向にあるため、医師の仕事の忙しさも増しています。
一方、クリニックは入院ベッドを全く持っていないところも多く比較的軽度な病状やケガの患者が多く訪れます。また、健康診断や相談などで来院する患者も多く、命に直結する症状の方はまれです。病院で治療を受けて経過観察のためにクリニックに引き継がれた患者を診る仕事もあり、継続して患者を観察し、適切な治療や処置を行う業務が多くなります。それでも、病状が悪化する可能性を見極め、より高度な医療が必要かどうかを判断できるスキルが必要です。特に医師が1人で診療にあたるクリニックでは、他の医師との交流が少なくなり、最新の医療情報に通じる点で、より一層の努力が求められます。そして、クリニックの評判が経営にも影響するため、医療技術やスキルとともに患者接遇の点で気を使う必要も出てきます。
このように病院とクリニックでは仕事内容や求められることが異なりますが、給料の点でも違いが出ます。地域性などによっても異なりますが、一般的にクリニックなど小規模の医療機関ほど平均年収が高く、中程度の規模、大学病院や基幹病院など規模が大きくなるにつれて、医師の平均年収は低くなる傾向にあります。特に大病院では若手であればあるほど給料の額が抑えられる傾向が顕著です。これは、大学病院や基幹病院では、高度な医療技術を身に着けるための勉強の意味合いが大きくなるためのようです。また、若手医師も、医師としての技術やスキルを磨き、その後に年収の高い中規模クラスの医療機関に転職したり、クリニックを開業するための布石を作る時間と考えていることも関係しています。そして、経験も給料も少ない若手医師は、一病院での給料の額は抑えられたとしても、当直など他の病院でのアルバイトで副収入を得ることもあり、給料の総額は一般に表されているデータよりも高い可能性もあります。さらに病院では、系列の病院に赴任することもあり、特に地方の病院では平均年収が上がる傾向にあるようです。
医師の勤務時間に関していですが、最近では働き方改革が論議されていますが、医師の残業時間はクリニックと病院では、かなりの違いが生じる場合があります。一般的に、診療時間が明確に決められる入院設備がないクリニックでは、医師の残業時間はそれほど多くありません。診療時間が終われば、夜間や休日診療を担当する医療機関に業務を引き継ぐ形になるので、休日出勤などの必要性は基本的にありません。一方、病院では患者の容態が急変したりなど様々な事象に対処するケースが増えるため、残業が増える傾向にあるようです。週に20時間以上残業しているケースも多く報告されますが、一般では月に80時間以上働くと過労死基準を超えるとされていることを考えると、特に病院で働く医師の労働時間はタイトなものであることがわかります。そのため、特に家庭を持つ医師がワークライフバランスをとるのに苦労することも少なくありません。そして、病院で働く医師の残業が多いことは、命に責任を持つ医師の仕事の特性とともに、会議や医療スタッフの教育、医療技術の進歩に応じてスキルアップする必要性なども関わっています。